結論。ぼくは何物でもなかったんだ、というのをこんな代償払って知ることになるとかかわいそうすぎて食欲をなくした。
アメリカンアニマルズみました。
すごい良かったです。エログロとかとは違った意味で心がずたずたになり、二度と見たくない……とまでは言わないけど、かなり間を開けないとつらくて見れないですが、良作です。見てよかった。
序盤の日常が後半の展開にものすごく活きている映画で、そこも良かった。普通の男の子が普通であるがゆえに、ずたずたになっていく混乱模様がすごいのなんのって、かわいそうすぎてみながら食欲をなくしました。個人的にはブロークンハートレベルは下手なホラーとかグロよりやばい感じでした、二回言うけど。ううう。
以下、映画のあおり文引用。
時価12億円のヴィンテージ本を狙った前代未聞の強盗事件。犯人は、4人の大学生。まさかの実話。事件を起こした本人たちを劇中に登場させ、ドキュメンタリーとドラマのハイブリッドにスタイリッシュな映像と音楽を盛りこんだセンセーショナルなハイブリッド・クライム・エンタテインメント!2004年、ケンタッキー州トランシルヴァニア大学の図書館で窃盗事件が起こった。標的は図書館に貯蔵された時価1200万ドルの価値がある画集「アメリカの鳥類」。犯人は大学生4人組だった。何一つ不自由のないはずの中流階級出身の彼らは何故犯罪に手を染めたのか?何が彼らを突き動かしたのか?アメリカ犯罪史上最も大胆不敵なこの強盗事件の結末は―。時価12億円のヴィンテージ本を狙った前代未聞の強盗事件。犯人は、4人の大学生。まさかの実話。
というわけで実話なんですよ奥さん。
2000年代の実話。それがこの映画のひりひりした感じというか、切なさを通り越したしんどさと辛さを大増幅させてくれるんですよね。何がって、彼らが自分に重なるんですよ、すごい近代で身近な感じが、彼らが自分たちの隣にいる今の人だなぁって感じからの、見てる人への近さが、共感値をすごく上げてると思います。そして、人が一度は通る、自分はなんかすごい何者かであるはずなんだ、ということを必死に証明しようとしているさまがね……ほんと心理的にも身近だよね……。
かわいい青春映画と思いきや。
思春期特有の『自分たちは(今は)何物でもない』『でも何かすごい何者かであるはずなんだ』『自分たちがすごくないのは、この世界のせいだ』からの『この町も先生も学校もすべてくそだ』というあのなんていうか若者の青い自意識がふんだんに盛り込まれていてくすぐったいような青春のような、甘酸っぱい感じが男の子二人を中心に駆け巡っていくんですけどね。そしてそれが結構心地よいというか、かわいい感じなんですよ。
泥棒、やってやろうぜ! みたいなところもオーシャンズ11とか見てわくわくしちゃってて、すごいことができる自分たちのファンタジーを増幅させてる感じがすごいんですよ。
俺たちはすごい、何者かになれるんだということが、絵を盗む(しかもスタイリッシュに)ということに象徴されている……。
絵を盗むことで現実を突きつけられる
で、盗む。彼らはやるんです。
それがもうひっちゃかめっちゃかになるんです。司書のおばさんを脅した恐怖と罪悪感、震える手、みんなが見た!みたいなところからがくぶるになり、車ははちゃめちゃ、動揺で吐く、普通の善良な男の子があまりの罪の重さに恐れおののくさまは、
「君たち……いい子だよ……なんでこんなことやっちゃったの……」
と胸が痛くなること請け合いすぎて死ぬ。
しかもぜんぜんスタイリッシュに行かないし、思い描いていた自分たちの理想はうちくだかれ、自分たちは全然特別じゃなかったということをここで突きつけられる。
メンタルはズタボロ、捕まるだろうという予感。ほんとなんで…自意識と向き合うことなくナルシシズムを増大させた末路がこれとか、でも、かわいそうすぎる…。
でもこうなる予兆はあったんですよ、一度目、返送して盗もうとしたのが失敗した時の恐ろしいほどの安堵とかね、そういうので、彼らはほんとにふつーの男の子で、銃を持ち出すほどの度胸もないし、人に冷徹になれないし、金の亡者にもなれないし、なんていうか優しい。
等身大の自分をつきつけられる現実の効果
で、合間合間にね……本物の当人がでてくるんですよ。
それが本当に、これが現実だったんだというのを思い知らせてくれて、本当にいたたまれないくらいかわいそうさが増幅されるんです……。この本人登場の効果は、この悪夢が悪夢じゃない現実であったことの証明であり、ほんっと見てる人のこころをずったずたに切り裂いてくれます(笑)
あとは、芥川龍之介の藪の中、みたいな、みんなの証言が食い違っているさまを考える、という点でも面白いんですが、この証言の食い違いによって明るみに出るのは、筆頭首謀者が、虚言に近い人物だということじゃないかなと個人的には想います。
皆を狂わせた一人の真実。
何かがおかしい一人。全員を引き込む話術で証言が食い違う一人。その一人が、おそらく人格的に問題を抱えていると私は思いました。林先生が個人的に大好きなのですが、その中の虚言の人々を思い出した感じです。病的な虚言。これらは精神疾患とはされないし、そもそも虚言癖のひとは診断しにこないので見つかりにくいと林先生は書いてます。演技性パーソナリティ的な何か……。あっ、林先生の虚言の話は下記につけておくので興味があればどうぞ。
皆が最後に向き合ったもの
それはさ……青春のうちにある自意識ですよ。皆が通り抜ける、何者でもない自分、大したことのない自分を認めるということに、犯罪を通して向き合ったんだよね……
首謀者なんか、あんなにくそだっていってた大学に再入学してるじゃん……心境、変化したんだね……。
でもさ、でも、こんな代償を支払ってまで向き合うことあった……?こじらせるにしてもかわいそうすぎない……?
見終わってほっとしたのが、強盗するときに誰も銃を持ち出そう、とか言わなくてよかったということです。それがあれば、きっともっとスムーズだったけど、このおバカなひっちゃかめっちゃかな感じだと司書さんとか誰か死にかねなかったよ。そしたらもはや笑えないレベルでとんでもないことになったんじゃないかな……。いや今も全然笑えないけど。
私も彼らを教訓にして自分に向き合おう、と思いましたが、私は編集の太田さんに、
「君はさあ!大したことないけど一ついいところがあって、自分が全然大したことないってことをはっきりわかって割り切って仕事してるよね、そこがいい」
と言われたのではっきり認めていました。ので、たぶん犯罪は犯さないね!よかったよかった!っていうか私も何者かでありたかったよ!もう!ばーかばーか!
と思いました。
いやー特別な自分である夢は見たいよね、私はもう覚めてしまったけど。
特別でないと認めた先にある地平
というわけで、幻想ではない自分と向き合うということができた先に、人は自分の人生を生きていけるのですよね~とも思う。これは仮にものすごい才能があったりしてもやっぱり一度経ないといけない壁のような気がします。人格的な成長とか成熟という意味で。
私の占いのクライアントさんとかと向き合ってると本当に思う。自分は何物でもないがきっと今よりもっと特別ですごいはずなんだ、今はそうじゃないけど という夢を、青春のうちに消化し、向き合うことは大事ですね。そうじゃないとその気持ちのまま、中年、老年になって立ち往生しちゃうから。
というわけでアメリカン・アニマルズ感想、きっつかったー。
が、すごい面白かったです。見終わった後食欲と元気を失い熱が出て頭痛がしたけど、お気に入りの7プレミアムのレモン入り炭酸飲んだら直りました。
皆見ようねー!