電子の海でダンスを

あたまのゆるいシナリオライターの雑記帳。

短プロメモ 龍のお嫁さん

 

短編のストック、いろんなところにメモってるんですが、よく紛失するのでここにもメモリがてらのせとこ、というわけで昔話調なやつのっけとくのであーる。

 

 

昔々あるところに、美しい魔女がいました。それはそれは美しい魔女で、その国の誰も、美しさでかなうものはありませんでした。


魔女はある時王宮へ招かれました。
そのあまりの美しさに、誰かが魔女に言いました。
「あなたは世界で一番美しい」
正直な魔女は笑って答えました。
「ええそうよ」

それを聞いて、王様はかんかんに怒りました。
「我が妃よりも、わが姫よりも美しいというか、傲慢な魔女め」
怒った王様は、魔女を国から追放してしまいました。その日から、魔女は国を追われ、荒野へさすらうことになったのでした。

12か月がたちました。
荒野の果てに、魔女は小さな村にたどり着きました。長い旅で疲れはてた魔女の身なりはぼろぼろで、美しさは見る影もありませんでした。
親切な村人たちは、そんな魔女に、なにくれと世話をやいてやったのでした。

一月たち、二月たち、魔女は元気になりました。
そうして元気になると、世話になった村人たちに薬を作ってやったり、家畜が良く育つまじないをしてやったりするようになりました。

魔女が村人たちと暮らして、3年が過ぎました。
その年は風がなく、暑い日が続きました。雨はもう一月もふっておりません。

このまま雨が降らなければ、年を越すための作物は育たないだろうと村人たちは怯えました。
「なんとかしてもらえないか」
村人たちがそう言って魔女を頼ると、彼女は必ず雨を降らせようと請合いました。

月の綺麗な暑い夏の真夜中、星が落ちてくるように輝く明るい夜でした。
魔女は、村からほんの少し離れた丘の向こうの平原で、魔法の力で雨を乞いました。するとどうでしょう、地鳴りのような音とともに、空から龍が現れたのです。
「この地に雨を」
魔女は言いました。
龍は応えました。
「良かろう、一晩の雨に、一人を捧げるなら」
わかった、と魔女は言いました。
「すぐに用意しましょう。たった一人の犠牲で、皆が助かるなら安いもの」
魔女は微笑みました。

その晩、久しぶりの雨が村の畑を潤しました。
一日中降り続いた雨で作物は息を吹き返したようにぐんぐんと伸びました。
村人たちは魔女のおかげだと、小躍りしながら礼を言おうと、彼女の家へと向かいました。
けれど、ドアが開いたままの、魔女の家には誰もいませんでした。
飲みかけの紅茶と、作りかけの風邪薬と、読みかけの本が開いたまま置いてあるだけでした。
魔女はどこにもいませんでした。何日たっても、何年たっても、帰ってくることはありませんでした。
ただ、魔女のいなくなったその日には、毎年毎年、変わらずに雨が降るのでした。村人たちは、きっと魔女がどこかで、毎年雨を恵んでくれているのだと、今でも伝えているのでした。

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